実家に帰るのは久しぶりだった。
昼過ぎ福岡駅についたが、家に向かうのは足が重く、
まずは腹ごしらえからだと自分に言い聞かせてカフェに入った。
…
今までごめんなさいと産んでくれてありがとうか…
もう、言ったことにして帰っちゃおうかな。
こんなに仲が悪いのに、そんなこと言えるか?
だいたい、そんなこと言わなくたって、
自分はどんなことでもするし、できる男なんだ。
そんな風に言い訳ばかりが頭に浮かぶ。
思い腰をあげて夕方前、ついに実家へ向かった。
懐かしい場所。
ここは元々は大好きだった祖母の家。
毎年新幹線で祖母の家に行くのが楽しみだった。
なのに、今はここに来るのがこんなに足が重いとは。
思い切ってチャイムを鳴らす。
出かけてていませんように…
ここまで来てまだ決心がつかない。
がちゃっとドアが開いて母が顔を出す。
あら、どうしたの?
今日は誕生日なのに、福岡に仕事?
そんなわけないじゃんと思いながら家にあがる。
普段あまり会っていないからか、
思ったよりも長く話すことができた。
仕事の調子はどう?
結婚するような相手はいるの?
自分は最近こんなことをしているとか。
祖母は施設に入ってるけどとりあえず元気だとか。
久しぶりに母とこんな話をした気がする。
でも、ふときづくと気まずい沈黙。
時計をみるともう19時だった。
20時過ぎの新幹線に乗らないと広島には帰れない。
もう、いい加減言うしかない。
一生で一番勇気を振り絞った時だったかもしれない。
母さん。本当に今までごめん。
冷たくしたし、ひどいこともたくさん言って。
…
…
…
う、産んでくれてありがとう。
…
この家に生まれて本当に良かった。
の子供で本当に良かったよ。
あ、ありがとう…
なかなか言葉にならなかったけど、
言葉にするうちになぜだか涙が溢れてきた。
泣くつもりなんて全くなかったし、
適当に言うだけ言ってすぐに逃げようと思ってた。
だけど、いつのまにか、泣いてる…
びっくりするくらい涙が出た。
でも、それと同時になんだか心が軽くなったんだ。
しきりにありがとうと繰り返した。
結局、新幹線には間に合わず、夜行バスで帰った。
家の外に出ると、何時の間にか雨もあがって
綺麗な星が見えた。
それから先、世界の景色が明るくなったきがして、
すべてのことに感謝ができるようになったんだ。